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躊躇せず伸ばした手は、柴田さんの制服の袖を掴む。
彼女が振り向くと、少し驚いた表情があった。
彼女の前に回って、早く歩いただけで乱れた呼吸を整える。
「……なんですか、泣きそうな顔して」
柴田さんの言葉に顔を下げそうになる。
「いいですよ、泣いてもらって。どーぞ……」
「……」
「……」
喉まできて引っ掛かる言葉が声になることはない。
そんな私に、柴田さんは浅く息を吐いた。
「野々原さん……周りに溶け込もうとしないくせに、いざ皆で集まるってなった時に声を掛けてもらえなかったら、いじけるタイプですか?」
「……」
「いっつも私から目線反らしてますよね……。私が声を掛けなかったこと、ここまで追ってくるくらい気に食わなかったんですか? どうも、すみませんでした」
謝ったからいいでしょ、という顔で、掴んでいる手を振りほどかれる。
「大丈夫ですか、手震えてますよ。……怒ってるんですか? 泣きますか」
……泣かない。
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