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視線だけ流せば、前に見たことある関係者以外立入禁止の文字が書かれた扉と、佐々さんの姿。
ネクタイの先を胸ポケットに入れてシャツの袖を捲った彼は、大きな段ボールを抱えている。
今まで距離を置いていた言い訳とか、ごちゃごちゃと頭に浮かぶもんだと思っていたけど……。
「……」
彼の目元を隠す前髪は、さっきまで耳にかけられていたんだろう。
ワックスで固まった髪は無造作に崩されていて、私の顔なんて見えてなさそう。
でも確かに、その間から覗く切れ長の目は、私を見ていた。
……佐々さんだ。
私は、ふいっと視線を足元に落とす。
「久し振り」
本当に久々に見る顔に、動揺より先に、解放感・安心感に似た感情を抱く自分がいる。
視力はそんなに良いほうじゃなくて、それでも、この距離からでもあれが佐々さんだとすぐに分かった。
「何してたの」
遠かった声、それがすぐ近くで聞こえたかと思うと、視線の先に見慣れたスニーカーが現れた。
「寂しかったよ」
落ち着いた声が降ってくる。
さみしかった。
うん……寂しかった。
1人で見る屋上からの景色は、どこか味気なくて。
最初はあんなに、他人の存在を拒絶していたというのに。
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