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それにしても――
「今日はまだ、ここ出なくていいの?」
「うん、向こうは残業」
「……あっそ」
「だからゆっきーに話し相手になってもらおうと思ったのに、こっちも残業ときた」
「それは残念だったね」
「クスクス。そんなとこまでお揃いなんだね?」
「はいはい。……どうせ遅れるんだから、今から待ち合わせ場所に向かえば」
「わ、ひどい」
――親しそう。
2人の掛け合いに、キョトンとした顔で見入っていると。
「心外だけど、あながち間違えではないのでそうさせて頂きます」
女の人はパッと体の向きを変えると、佐々さんを残してこちらに歩いてくる。
どうしてかその足が、私の前で止まった。
「あ……」
「この間はごめんなさい」
すぐにぶつかった日のことを思い出すと、私はフルフルと横に首を振る。
「本当は、自己紹介でもしたいところなんだけど。後ろの人が急かすから、今日はこれで。また今度ゆっくり話そうね」
その人は体の前で手を組むと、目線の高さを合わせるように頭を傾けて、柔らかな笑みを浮かべる。
釣られて私の口元も、ヘラ……と緩みそうになるけれど、ハッとして口を開く。
「え。あの」
今度って――。
「美穂」
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