霞み想-カスミソウ-(前編)

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それにしても―― 「今日はまだ、ここ出なくていいの?」 「うん、向こうは残業」 「……あっそ」 「だからゆっきーに話し相手になってもらおうと思ったのに、こっちも残業ときた」 「それは残念だったね」 「クスクス。そんなとこまでお揃いなんだね?」 「はいはい。……どうせ遅れるんだから、今から待ち合わせ場所に向かえば」 「わ、ひどい」 ――親しそう。 2人の掛け合いに、キョトンとした顔で見入っていると。 「心外だけど、あながち間違えではないのでそうさせて頂きます」 女の人はパッと体の向きを変えると、佐々さんを残してこちらに歩いてくる。 どうしてかその足が、私の前で止まった。 「あ……」 「この間はごめんなさい」 すぐにぶつかった日のことを思い出すと、私はフルフルと横に首を振る。 「本当は、自己紹介でもしたいところなんだけど。後ろの人が急かすから、今日はこれで。また今度ゆっくり話そうね」 その人は体の前で手を組むと、目線の高さを合わせるように頭を傾けて、柔らかな笑みを浮かべる。 釣られて私の口元も、ヘラ……と緩みそうになるけれど、ハッとして口を開く。 「え。あの」 今度って――。 「美穂」  
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