霞み想-カスミソウ-(前編)

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用事があるなんて、全くの嘘。 佐々さんと別れた後は、何もない家に1人で帰った。 ただ単に送ってもらうのが悪いからという気持ちだけではなく、聞きたいことも聞けない自分を誤魔化したくて、勝手に口から出た適当な言葉。 今日は全然、佐々さんと話してない。 心残りがあるのなら素直に送ってもらえばよかったと、夜になって後悔して、そのまま翌朝を迎えるんだった。 「女の人?」 今日は残業じゃないかな、と朝から放課後のことを思う私は、正門で白雪さんと会った。 教室に着くまで、昨日図書館であった出来事を話す。 「何が引っ掛かってるんすか? 本の場所を案内してたんじゃない?」 「でも、親しげだったから。それに……」 「それに?」 また今度って、言われたんだよね。 佐々さん、笑ってはなかったけど、口調が仕事用じゃなかったし。 ……そっか。 昨日からの心残りは、単に、佐々さんが屋上に来なくて会話が出来なかったからってだけではなくて。 どうも私は、あの女の人のことが気になっているみたい。
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