霞み想-カスミソウ-(前編)

3/40
前へ
/40ページ
次へ
マニキュアを塗ってからも、爪を噛むことはあったけれど。 違和感と、何よりその不味さに、今では噛みそうになったことに気付いて止めることが出来るようになった。 それに、この綺麗な指先を保っていたいって思うから。 欠けていない爪、不細工じゃない。 光に当たると指先に意識が向くから、手の動きがしなやかになる。 子供の頃に憧れたシンデレラに、今なら少し近づけてるのかな、なんて思――。 「1人で笑ってる……」 「! す、すみません。思い上がりです」 「は?」 「あ……いえ……」 屋上でいつもの定置位置に座って隣で本を読む佐々さんは、無表情で声を掛けてきたかと思えば、また視線を落として読書を続ける。 笑ってた……? グニグニ自分の頬を摘まみながら、急に恥ずかしくなって腰を上げると、柵の前まで移動する。 ――あれ。 街を見下ろしていた私の視界に、髪をなびかせ走る人が飛び込んできた。 あれは……少し前にぶつかった女の人?
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加