霞み想-カスミソウ-(前編)

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「――フ」 ピンと伸びた姿勢を崩さずに走っている姿を見て、笑みがこぼれた。 マニキュアを塗っただけなのに、ちょっぴり世界が違って見えるのは気のせいかな。 穏やかな気持ち。 いつもきゅっと結んでいた口元が緩む。 優しい人が見ている世界ってこんなのかな、とさえ思える。 あの人、今日も待ち合わせの時間に遅れてるのかな? しっかりしてそうなのに、と心の中で呟いて、少し安心している私がいた。 女の人の姿が見えなくなっても、ずっと立ちっぱなしで街を見下ろす。 そこに流れる時間を眺めていると、こちらの時間の経過も早かった。 「はい。おたくの分」 そろそろ帰るかという時、佐々さんに本を渡される。 「あ、はい」 受け取ろうと、手を佐々さんの前に出すと。 ――あ。 彼の視線が、私の手元に向けられるのに気付いた。 「……」 見られてる。 悪いことじゃないのに、悪いことをしているのがバレた時の様な心境。
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