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「――フ」
ピンと伸びた姿勢を崩さずに走っている姿を見て、笑みがこぼれた。
マニキュアを塗っただけなのに、ちょっぴり世界が違って見えるのは気のせいかな。
穏やかな気持ち。
いつもきゅっと結んでいた口元が緩む。
優しい人が見ている世界ってこんなのかな、とさえ思える。
あの人、今日も待ち合わせの時間に遅れてるのかな?
しっかりしてそうなのに、と心の中で呟いて、少し安心している私がいた。
女の人の姿が見えなくなっても、ずっと立ちっぱなしで街を見下ろす。
そこに流れる時間を眺めていると、こちらの時間の経過も早かった。
「はい。おたくの分」
そろそろ帰るかという時、佐々さんに本を渡される。
「あ、はい」
受け取ろうと、手を佐々さんの前に出すと。
――あ。
彼の視線が、私の手元に向けられるのに気付いた。
「……」
見られてる。
悪いことじゃないのに、悪いことをしているのがバレた時の様な心境。
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