霞み想-カスミソウ-(前編)

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「ぶ」 「あと何回、この面白い顔が見れるかな」 いつもの如く佐々さんに頬を挟まれて、私は視線を外してされるがまま。 最初は、変な顔を見られるのが恥ずかしかったけれど、今ではすっかり慣れてしまった。 「……ほら。遊んでないで、行くよ」 「……」 遊んでるのは佐々さんじゃない。 屋上の扉を開ける佐々さんの背中を見つめながら、本を胸に抱いて笑った。 「――あ」  1日2日、日付が変わって、毎日屋上に来ては街を見下ろす私は、例の女の人をよく見つけるようになった。 一度接触すると、こうも目に付くもんなんだな。 「佐々さん、あの人見たこと――」 この道を通る人だから、佐々さんも見掛けたことがあるんじゃないか、と後ろを振り向いて聞くけれど。 「……あ」 ベンチに佐々さんの姿はない。
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