霞み想-カスミソウ-(前編)

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今日はもう帰ろうかな。 誰もいない屋上に別れを告げると、1階に降りてカウンターへ向かう。 佐々さんに伝えてから帰ろうと思ったんだけど、カウンターに佐々さんの姿は見当たらない。 ロッカーで靴を履き替えてるのかな……? 「あの……」 他の図書館員の人と話をしていた米谷さんにこっそり話し掛けて、佐々さんの居場所を訪ねる。 「さて。休憩室に入っていくところは見てないから、まだ館内にいるんじゃないかねぇ」 「そうですか……」 「どうかしましたか?」 米谷さんと話していた人が、私をチラリと見て米谷さんに耳打ちするのが聞こえた。 「フフ。佐々さんの可愛いお客さんだよ」 米谷さんが言うと、図書館員の人がしげしげと私を見てくる。 「ああの、探してみます。ありがとうございました」 私はせっかちに頭を下げて、急いでその場から離れた。 「こら、お客様を食い入るように見るもんじゃないよ。逃げてしまったじゃないか」 「いやー。今日、佐々の所在を訪ねてきたの、あの子で2人目なんですよ――」
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