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『なんか、嬉しいなぁ』
「っえ?」
『ブフ。ッハハ、なんでもない』
「わ、私、大丈夫かな」
『えぇ?』
「胸が苦しいの。でも昔のとは違うの、こんなの初めてなの」
『ほー。あの人の時は、そうならなかったんすか?』
あ、あの人?
「あ――……う、うん。認めた時には、全部終わった後だったから……」
辛くて、痛かった。
でも、あの時の苦しさとも違う。
なんて言ったらいいのか……分からない。
『やっぱり、私が背中を押した方がいいのかな……』
「っへ?」
『あ、ううん。沙彩ちゃんはまず、落ち着いて落ち着いて』
白雪さんと話してる間も、私の頭の中は佐々さんでいっぱいだった。
さっきまで乗ってた佐々さんの車の匂いとか。
私の頭を撫でた手とか、頬を挟んでちょっと悪戯っ子みたいになってる顔とか。
朝の寝起き声とか、たまに目元をくしゃってして影でハニカムのとか。
全部急に、バァっと頭の中に流れてきて。
最後は、屋上のベンチで本を読む佐々さんの姿が浮かんだ。
いつも佐々さんは、屋上の扉を開けた私に気付くと本を捲る手を止めて、無表情に近い、でも優しく微笑んでるような顔で迎えてくれるの。
それが心地好くて、また明日も屋上に来ようって気持ちにさせる。
あぁ私……いつの間にか目的が変わってる。
広い広い空の下――
あのベンチに座って、佐々さんと共有する時間が……好き。
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