霞み想-カスミソウ-(後編)

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『なんか、嬉しいなぁ』 「っえ?」 『ブフ。ッハハ、なんでもない』 「わ、私、大丈夫かな」 『えぇ?』 「胸が苦しいの。でも昔のとは違うの、こんなの初めてなの」 『ほー。あの人の時は、そうならなかったんすか?』 あ、あの人? 「あ――……う、うん。認めた時には、全部終わった後だったから……」 辛くて、痛かった。 でも、あの時の苦しさとも違う。 なんて言ったらいいのか……分からない。 『やっぱり、私が背中を押した方がいいのかな……』 「っへ?」 『あ、ううん。沙彩ちゃんはまず、落ち着いて落ち着いて』 白雪さんと話してる間も、私の頭の中は佐々さんでいっぱいだった。 さっきまで乗ってた佐々さんの車の匂いとか。 私の頭を撫でた手とか、頬を挟んでちょっと悪戯っ子みたいになってる顔とか。 朝の寝起き声とか、たまに目元をくしゃってして影でハニカムのとか。 全部急に、バァっと頭の中に流れてきて。 最後は、屋上のベンチで本を読む佐々さんの姿が浮かんだ。 いつも佐々さんは、屋上の扉を開けた私に気付くと本を捲る手を止めて、無表情に近い、でも優しく微笑んでるような顔で迎えてくれるの。 それが心地好くて、また明日も屋上に来ようって気持ちにさせる。 あぁ私……いつの間にか目的が変わってる。 広い広い空の下―― あのベンチに座って、佐々さんと共有する時間が……好き。
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