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――ザァァァ
話すこともなくなると、耳に入ってくる雨の音がまた強くなる。
佐々さんは、私が車から降りるのを待っている。
私はドアノブに手を掛けたまま、自分の足元を見下ろす。
「……? ごめん、車で送れるのはここまでなんだ。玄関まで走っても少し濡れるだろうから……すぐに頭拭いて」
そう、じゃない……そうじゃなくて。
佐々さんの視線を避けるように顔を背けると、出来るだけいつもの口調で切り出す。
「電話……美穂さんの声がしたんですけど」
「あぁ。さっきの」
「……」
“何かあったんですか?”
言葉にしなくても、相手に伝わればいいのに。
「『けど』なに」
「……お、幼馴染みがいるなんて、初めて知りましたっ」
いつもの口調で、と心の中で何度も言い聞かせていたら、いつもどんな風に話してたか分からなくなった。
面白くもないのに笑うのは慣れてる。
佐々さんを視界に入れないよう顔を背けている分、精一杯声のトーンを上げた。
「双子のお兄さんのことも。本当にそっくりで驚きました。……送ってくれてありがとうございました。気を付けて帰って下さい」
言い逃げをしようと、佐々さんの顔を見ずに車から降りようとする。
地面に片足を降ろすと、肩に掛けた手提げカバンがクンと何かに引っ掛かった。
後ろを確認すると、何かに引っ掛かったわけではなくて、佐々さんがカバンの端を掴んでいた。
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