霞み想-カスミソウ-(後編)

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――ザァァァ 話すこともなくなると、耳に入ってくる雨の音がまた強くなる。 佐々さんは、私が車から降りるのを待っている。 私はドアノブに手を掛けたまま、自分の足元を見下ろす。 「……? ごめん、車で送れるのはここまでなんだ。玄関まで走っても少し濡れるだろうから……すぐに頭拭いて」 そう、じゃない……そうじゃなくて。 佐々さんの視線を避けるように顔を背けると、出来るだけいつもの口調で切り出す。 「電話……美穂さんの声がしたんですけど」 「あぁ。さっきの」 「……」 “何かあったんですか?” 言葉にしなくても、相手に伝わればいいのに。 「『けど』なに」 「……お、幼馴染みがいるなんて、初めて知りましたっ」 いつもの口調で、と心の中で何度も言い聞かせていたら、いつもどんな風に話してたか分からなくなった。 面白くもないのに笑うのは慣れてる。 佐々さんを視界に入れないよう顔を背けている分、精一杯声のトーンを上げた。 「双子のお兄さんのことも。本当にそっくりで驚きました。……送ってくれてありがとうございました。気を付けて帰って下さい」 言い逃げをしようと、佐々さんの顔を見ずに車から降りようとする。 地面に片足を降ろすと、肩に掛けた手提げカバンがクンと何かに引っ掛かった。 後ろを確認すると、何かに引っ掛かったわけではなくて、佐々さんがカバンの端を掴んでいた。
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