霜焼け(前編)

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「女だけなんだから、本当は暗くなる前に帰れって言いたいところなんだけど。それじゃ勉強する時間ないよね」 心配してもらえるのが嬉しい。 そう思うと、手足は冷えているのに心はあったかくなった。 「――これ」 小さな紙袋を渡された。 これがメールで言ってた、渡す物? なんだろう、と紙袋の中を覗く。 ……キャミソール。 「どうしたんですか、これ」 「いや、それおたくの」 「!」 え、忘れてた? っいつ? 最近のではないはず、と思った瞬間、心がモヤッとする。 「ベッドの下で掃除機に何かが吸い付いたと思ったら、それだった。おたくのでしょ?」 「は、い」 「下着の1つでも忘れてたら上出来だったのにね」 「じょ――」 上出来って、何がですか。 ……なんか、言い慣れてるっていうか。 そうだよね。佐々さんは過去に誰かと付き合った経験があるんだから。 でもそれ……美穂さんのことを好きでいながら付き合ってたってこと、だよね。 それが、『両想いで付き合い始める人間なんていない』って言える人の付き合い方、なのかな。 「来年になるまで雪は降るかな」 「そうですね……毎年12月になると――」 わざと佐々さんと距離をあけて並んだから、私達の間には冷たい風の通り道が出来ていた。 この人を好きだと思った日から、どこかよそよそしい私の態度は、佐々さんに気付かれてないといい。
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