霜焼け(前編)

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マフラーに顔半分を埋(ウズ)めて、弛みのない気持ちを小分けにして吐き出す。 まさか自分が、この人相手にこうなるなんて思ってもなかった。 ……佐々さんと付き合うことになった時、もしかしたらと想像はしたけど。 白雪さんが電話で言ってたこと、少しずつ分かってきたよ。 単純にはいかないこんな世の中なのに、人の心は物凄く単純。 「そろそろ帰ろうか。本の返却お願いしてい?」 「はい」 「じゃあ、これとこれ」 「……冬の間は、手袋したらどうですか?」 「ページが捲りにくいでしょ」 「……まぁ」 「温かい鍋でも食べようか」 「?」 「頬が赤くなってる。とっとと家帰って、鍋食べよう」 「……はい」 っ私の顔が赤いっていうならそれは、さっき本を預かる時に、おたくと手が触れたからですよ。 私の気持ちに気付かれても困るけど、何も知らないでいられるのも、ちょっと腹が立つ。 「お鍋って、何するんですか?」 「……闇鍋? 前から興味あるんだよね」 「そ、れは……止めたほうがいいですよ」 「どうして」 「小学生の頃に一度、父と闇鍋パーティーなるものを催した記憶があるんですけど……軽くトラウマです」 「へー。ますます好奇心が湧いた」
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