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マフラーに顔半分を埋(ウズ)めて、弛みのない気持ちを小分けにして吐き出す。
まさか自分が、この人相手にこうなるなんて思ってもなかった。
……佐々さんと付き合うことになった時、もしかしたらと想像はしたけど。
白雪さんが電話で言ってたこと、少しずつ分かってきたよ。
単純にはいかないこんな世の中なのに、人の心は物凄く単純。
「そろそろ帰ろうか。本の返却お願いしてい?」
「はい」
「じゃあ、これとこれ」
「……冬の間は、手袋したらどうですか?」
「ページが捲りにくいでしょ」
「……まぁ」
「温かい鍋でも食べようか」
「?」
「頬が赤くなってる。とっとと家帰って、鍋食べよう」
「……はい」
っ私の顔が赤いっていうならそれは、さっき本を預かる時に、おたくと手が触れたからですよ。
私の気持ちに気付かれても困るけど、何も知らないでいられるのも、ちょっと腹が立つ。
「お鍋って、何するんですか?」
「……闇鍋? 前から興味あるんだよね」
「そ、れは……止めたほうがいいですよ」
「どうして」
「小学生の頃に一度、父と闇鍋パーティーなるものを催した記憶があるんですけど……軽くトラウマです」
「へー。ますます好奇心が湧いた」
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