霜焼け(前編)

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閉館前の図書館を出ると、澄んだ空気と、明るい月が出ていた。 佐々さんと駐車場まで歩くと、彼が車に乗るのを見守ってから私も助手席に座る。 「っ――」 スカートから出た足が冷たいシートに触れて、私は体を震わせた。 「……大丈夫?」 「はい」 「カーデ下に敷いとく?」 「っいえ、大丈夫です」 佐々さんは片方の手でシートベルトを、もう片方でエアコンパネルのつまみを回すと、私の足元に温かい風が吹き始める。 あったかい。 少し曇っていたフロントガラスが晴れると、佐々さんは車を発進させた。 そのままマンションへ向かうかと思いきや、車は近くのスーパーに寄る。 「……何か買うんですか?」 「買わないと鍋が出来ないよ」 「そう、ですね」 なんだろう。この不安な気持ちは。
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