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「……何かあらぬことを想像してたりしないよね」
真顔でじっと見つめられて、私は口を真一文字に結ぶ。
佐々さんはよく『言わないと伝わらないよ』と言って、私が話しやすいようにしてくれるけど。
何か言いたそうにしてるのを、おばさんも白雪さんも――佐々さんも、察してくれるよね。
何も言わなくても、気付いてくれる人はいる。
そこから何かを伝えるのは自分で、頑張らなくちゃいけないのも……自分だ。
「……」
何も答えないでいるとそれを肯定ととったのか、佐々さんはどこか呆れた顔でシートに体を預ける。
彼の左手はカバンを掴んだままで、私の左足は外に出たまま。
ちらりと視線を向けてくる佐々さんに、
「足しまいなさい」
と言われたので、私は車のドアを閉めると、佐々さんの手もカバンから離れた。
今は濡れてしまった左足よりも、横にいる佐々さんが気になって仕方がない。
「……野々原さんのそれって、嫉妬?」
「し――。……ただ、佐々さんのこと何も知らないなと思って……」
「知りたいと思う?」
フロントガラスの向こうを見つめる佐々さんは、静かにそう呟く。
「私は――……話してほしいと、思います」
「……なら、最初会った頃に聞いてくれればよかったのに」
「すみません……」
あの時は、自分のことを話すのでいっぱいいっぱいだったんだよ。
「……美穂は」
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