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佐々さんが、話そうとしてくれている。
雨の音で聞こえなかったということがないように、私は耳を澄ませた。
「美穂は」
――ザァァァァァ
「僕が、初めて好きになった人」
ぎゅっと、佐々さんの言葉が私の心臓を締め付ける。
は――。
「野々原さんの“あらぬ想像”は、あながち間違いじゃないか。……美穂は僕達双子の初恋の相手で、もうすぐ明人の嫁さんになる」
ぼ――僕……たち。
「あ……その」
「……違うよ。昼間流れてるドラマなんかと違って全然可愛い話だから、困らないで」
佐々さんは今にもあくびが出そうな、落ち着いた声で淡々と話を続ける。
「僕達の気持ちを知らないまま、美穂は明人を選んだ。明人が気持ちに応えると、晴れて2人は恋人同士になった。それでも……僕が1人になることはなかった」
「……」
けれどその後、自分から美穂さんと距離を置いたこと。
それが最近久しぶりに顔を合わせて、昔を思い出すことがあったこと。
今はまた昔の様に明人さんと美穂さんが喧嘩をすれば、美穂さんの呼び出しがあって、仲を取り持つようになったこと。
それからは、何かある度に3人で会うことが増えて、これからまた2人の仲裁に向かうこと。
昔からのことだからもう慣れたよ、と佐々さんは最初から最後まで変わらぬ口調で話をしてくれた。
「それが惚れた弱味なのか、単に腐れ縁だからなのかは分からないけど。僕と美穂の間には何もなくて……3人集まれば“仲の良い幼馴染み”なんだ」
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