霞み想-カスミソウ-(後編)

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佐々さんの初恋の人は、美穂さんで。 明人さんも、美穂さんで。 美穂さんは何も知らずに、明人さんを選んだ。 2人は、近く結婚……。 「そんなに驚くことかな」 ずっと見ていた横顔がこっちを向いて、目が合うと、私はへらっと下手くそに笑ってみせる。 ねぇ……佐々さん。 出会った頃とは、違うんだよ。 最初はただ、呑気な人だなぁ、眠いのかなぁ、って思った。 でも、今なら分かるよ。 明人さんや美穂さんには敵わないけど、少し分かるよ。 ご飯を食べてる時の美味しそうな顔とか、本を読んでる時の心踊らせてるような顔とか。 表情がないように見えるけど、これだけ毎日会ってたら分かるよ。 ……分かったかもしれない。 前から、怖いくらい表情が消えて、人に『死んでる』って言われる目で、暫く何もないところを見つめて。 私も佐々さんに同じこと言われたことがあったのに、どうして気が付かなかったんだろう。 その時自分がどんな気持ちで、何を思ってたか考えれば、佐々さんのその表情の理由(ワケ)に気付くことが出来たかもしれないのに。 美穂さんの電話を切った後の顔も、さっきから話をする顔も同じ。 決まってその時……佐々さんの中に、美穂さんがいるんじゃないの。
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