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それってまだ、美穂さんのこと……。
そんな考えが浮かんで、それを消そうとした時だった。
カクンと視界が上下に揺れて、頭が重くなる。
斜めを見上げると、私の頭の上に伸びた腕と、変わらない佐々さんの表情があった。
少し笑っているようにも見えるその顔が、切なげにも見えてしまうのは、私の勝手な憶測が補正をかけているからなのかは分からない。
もうずっと、胸が苦しい。
息を吸って吐いても、心臓を締め付ける感覚は弱まらない。
苦しくて、苦しくて、今はその苦しさから解放されたかった。
こうなっている原因を、私は知ってる。
「フ、なんて顔してんですか。……どんな想像膨らませてるか知らないけど、どうしておたくが泣きそうになってんのよ」
「っ――」
泣きそうに見えるならそれは、胸が苦しいせい。
トク、トクと速くなる鼓動に不安を抱けば、それが悪循環になって更に速くなる気がする。
「……」
頭に乗っている佐々さんの手を、私は手の甲で押しのけるとそれをやめてもらう。
「え?」
と、暗い車内に静かに放たれた彼の低い声。
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