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ゆっくり胸に手を当てて、急く気持ちを抑えながら空いている手でカバンの中を漁る。
携帯を取り出してダイヤルボタンを押す頃には、制服の胸元にシワを作っていた。
そんな顔、しないで。
美穂さんのところに行かないで。
「っ――」
美穂さんの名前を……呼ばないで。
さっき、心の中にストンと落ちてきた。
そっか……そうだね、ってあやすようにその気持ちを認めようとした時、体の底から何かが込み上げてきそうになった。
これ以上佐々さんといると、私はそれを言葉にして、困らせることしか出来ないんだと思った。
私は、佐々さんを困らせることしか出来ない。
耳に当てた携帯から、呼び出し音が聞こえる。
――トク、トク、トク
なんだこりゃ。
なんだか、胸のところがこそばゆい。首から上が熱くなる。
興奮してる? 私。
「つう……」
高ぶって出てきそうになる感情を抑えたら、変な声を出してしまう。
――ギィウゥゥ
胸元のスカーフはくしゃくしゃだ。
……私は、美穂さんを好きになれない。
佐々さんが名前を呼ぶ度、憧れが妬みに変わる。
羨ましいが、嫉妬に変わる。
しょっちゅう家に行ってるの?
私の知らないところで。
美穂さんは、明人さんと喧嘩をする度に佐々さんを呼ぶの?
佐々さんの気持ちも知らないで。
佐々さんはそれでいいの?
どんな気持ちで、2人の前に立ってるの?
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