霞み想-カスミソウ-(後編)

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ゆっくり胸に手を当てて、急く気持ちを抑えながら空いている手でカバンの中を漁る。 携帯を取り出してダイヤルボタンを押す頃には、制服の胸元にシワを作っていた。 そんな顔、しないで。 美穂さんのところに行かないで。 「っ――」 美穂さんの名前を……呼ばないで。 さっき、心の中にストンと落ちてきた。 そっか……そうだね、ってあやすようにその気持ちを認めようとした時、体の底から何かが込み上げてきそうになった。 これ以上佐々さんといると、私はそれを言葉にして、困らせることしか出来ないんだと思った。 私は、佐々さんを困らせることしか出来ない。 耳に当てた携帯から、呼び出し音が聞こえる。 ――トク、トク、トク なんだこりゃ。 なんだか、胸のところがこそばゆい。首から上が熱くなる。 興奮してる? 私。 「つう……」 高ぶって出てきそうになる感情を抑えたら、変な声を出してしまう。 ――ギィウゥゥ 胸元のスカーフはくしゃくしゃだ。 ……私は、美穂さんを好きになれない。 佐々さんが名前を呼ぶ度、憧れが妬みに変わる。 羨ましいが、嫉妬に変わる。 しょっちゅう家に行ってるの? 私の知らないところで。 美穂さんは、明人さんと喧嘩をする度に佐々さんを呼ぶの? 佐々さんの気持ちも知らないで。 佐々さんはそれでいいの? どんな気持ちで、2人の前に立ってるの?
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