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「……ふぅ」
何を緊張することがあるのか。
あぁでも、いつぞやの様に佐々さんは眠っているかもしれないなと思いながら、ひっそり寝室の扉を開ける。
部屋の照明は消されていて、ベッドの側にあるスタンドライトのオレンジだけが辺りを淡く照らしていた。
あ……。
ベッドの縁に座った佐々さんは首からタオルを掛けていて、その髪はまだ濡れているみたい。
「乾かさなかったんですか?」
「まぁ……早くあそこから離れたかったし」
「え?」
「いいよそんなことは。それよりこっち。――おいで」
部屋のどこにいればいいのか分からなくて立ちすくんでいた私は、佐々さんに言われてようやく扉の前から一歩を踏み出す。
「――っくし。ズ」
えぇっ。
佐々さんがくしゃみをした。
「あの、風邪引きますよ」
佐々さんの首からするりとタオルを取って、それで彼の髪を優しく挟むと、タオルは水を吸ってみるみる色を変える。
「なんにも拭けてないじゃないですか」
「ん……」
私の胸の高さにある佐々さんの頭、彼が下を向くと、いつもは見えないつむじが見えた。
こんなとこに、なんて思いながら手を動かしていると。
――ビク
佐々さんの両手が腰に回されて私は内心驚くけれど、辛うじて髪を拭き続ける。
だけど。
「――わ」
俯いていた頭が上げられると同時に、グッと腰を引き寄せられて佐々さんの足の間に挟み込まれた。
私は行き場のない手を浮かせたまま、彼を見下ろす。
「佐々、さん?」
名前を呼ぶと、更に腰に回された腕に力が込もってきつく抱き締められた。
「……」
何も喋らない佐々さん。
私は一度躊躇して、彼の頭にそっと触れてみる。
――さわ
「……もう、明人に触らせない」
私はもう一度ぎこちなく佐々さんの頭を撫でて、ゆっくり気付かれないように息を吐いた。
人をこんなに、こんなにも愛しいと想ったことはない。
私の体に顔を埋めて低く掠れた声で呟いた彼に、きゅう、きゅうと縮まる心臓。
「触れさせないで」
「……はい」
声が震えた。
――トサ……
腕を引かれた私は、ベッドの上で天井を見つめる。
ドキドキ、次を待つ私に佐々さんは言った。
「おやすみ」
――あれ?
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