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「おたくの真っ赤な耳見てると、こっちがのぼせそう」
え、赤い? 自分で分かる筈もないのに耳に触れて確かめる。
「先あがるから。出る時は10数えるんだよ」
……10?
「――フフ。懐かしいですね、それ」
浴室のドアが閉められると、私は頭や体をぱぱっと洗ってしまう。
「野々原さん」
「っはい」
急に脱衣室から声を掛けられて、急いで浴槽に浸かると、
「っうぷ」
お湯が跳ねて、もう少しで口に入るところだった。
「どうかした?」
「や、なんにも」
「? 風呂出たら寝室ね」
「あ、はい――」
返事をしたものの、私は口を半開きにしてすりガラスの向こうを見つめる。
「……ブクブク」
浴槽にゆっくり背中を預けてお湯の中で小さな泡を作ると、さっきまで佐々さんが入っていたことを思い出す。
「っ――」
まるで佐々さんに抱き締められているみたいで、10数える前に浴槽から出てしまうんだった。
――ゴォォォ
ドライヤーの弱で頭を乾かしながら、洗面台の鏡を見つめる。
そこに映った自分は、無理に笑うこともしないし泣くこともない。
そよそよ揺れる髪は乾いたところからピンと跳ねてきて、『あぁもう』とへこむけれど、今までのそれとは少し心情が変わった気がする。
佐々さんの前だけでいいから、これ、真っ直ぐになってくれないかなぁ。
好きな人によくこんな姿晒せてたよ……。
直らない、と佐々さんが待っているのも忘れて髪の毛を弄る。
「少しはマシになったかな……」
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