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佐々さんはフン……と鼻からため息を吐いて、
「今さ……顔に出てないだけで、頭ん中ふわふわしてるよ?」
久しぶりに走った……、そう言ってコンクリート塀に背を向けて、佐々さんはその場にしゃがみ込む。
「……自分が一番驚いてるよ。焦りすぎて、そういえば玄関の鍵も閉めてきてない」
「あ、危ないじゃないですか」
佐々さん……いつもより口数が多いのは、焦ったから?
「危ないですよ。……酒飲んでる人間を走らせるかね」
「はし、走って追い掛けて来てくれるなんて、思ってもなかった……から」
「……」
佐々さんは、顔に似合わないヤンキー座りをして見上げてくる。
その表情だけでは、感情を読み取ることが出来ない。
「……野々原さんさ」
「……はい」
「おつむが弱いんですか?」
「……」
見下した笑みでも向けられたなら腹を立てたんだろうけど、そんな無表情で言われてしまうと、『はぁ……』と答えてしまいそうになる。
「す……すみません……?」
私の呼吸も落ち着いて、もう涙も出ていない。
「さっきまで家にいた人が忽然と姿を消して、気にならないっていう人がいたとしてもそれは少数派だよ。……そりゃ僕は、そういう人間だって思われても仕方ないけどさ」
「違……。そうじゃなくて……」
「……僕、また何かした? 泣いてた理由は教えてくれないの」
「……」
「泣きたいって思える人間には、なれなかった……?」
低い声が、伏せられた目が、私の胸を締め付ける。
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