はじめての絵

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正式な夏休み初日と言うこともあり、商店街は意外と若い人間が目に付いた。  彼等は大きく二極化されていて、ラフなシャツにビーチサンダルといった出で立ちの村の人間と、必死に外を取り入れようとする華やかな外見とに分かれている。  「……じじくさい表現だな直也」  なじみの商店の店主が、新聞から顔を上げないで呟く。  「いや、僕なんて制服そのままですからね」  淡々と言いながら、紙パックのオレンジジュースを冷蔵庫からとりだす。  涼しい。  思わず、体を入れたくなる。  「こらこら、そこ、開けっ放しにしない」  「……分かってますよ」  ジュースをおでこに当てながら、カウンターの前に立つ。  「また、いつもの草原に絵を描きに行くのかい」  「ええ」  「こんな暑い日に外をうろつくなんて、この年になると、苦行にしか見えないよ」  電車で値段を計算しながら、店主は眉をよせる。  「2人とも良くやるねぇ……」  「2人?」  「あぁ、ついさっき、あの変な絵描きさんの娘も、ここでアイスを買ってったよ」  「みく先輩が?」  あの人がアイスを食べながら歩いてる姿は、想像するだけで微笑ましい。  あれだけ可愛いと、何を食べてても絵になる。  「おじさん、やっぱジュース2つにして」  「惚れてるのか?」  「……ばか言わないでくださいよ」  「じゃあ、妹さんとの禁断の愛かね?」  「……殺しますよ」  「いやいや。2人ともあれだけ可愛いだろ?それと長年向き合ってれば、面食いにもなるわ」  ニャーニャーと店主が笑う。  「あのね、そりゃあ先輩は明るいし、可愛いとは思うけど……」  ふと、小銭をあさる手が止まる。  思うけど、なんだろう?  「ぶふぁふぁふぁ!」  「……笑うな暑苦しい」  小銭を叩きつけて呻く。  このくそ暑いのに、体温まで上げられては敵わない。  「オーケー、オーケー、もう笑わないから」  「まだ笑ってますよ」  「で、あのお絵かき講座の宿題かい?」  年をとり過ぎて、面の皮も厚いらしい。  一つ息を吐いて、僕は足下の荷物を示す。  「いや、趣味です」  「夏休みか……青春だねぇ」  お釣りと商品を受け取りながら、僕はその言葉を、使ったら年寄り臭い言葉のリストにくわえた。  「あの。先輩はどこに行くか言ってました?」  どうだろう。草原じゃなかったら、川原かな」
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