はじめての絵

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 先輩を仰ぎながら、自分の膝で頬杖をつく。  よく考えれば、顔を合わせていれば絵を描いているような仲なので、ここまでプライベートな面を覗くのは久しぶりだった。  少し懐かしい。  子供時代の思い出に、久しぶりに、作り笑いでない笑みがこぼれた。  「……真っ白」  どうしてこんなに白いのだろう?  周囲を見渡しても、どこも同じ。  距離感も、時間の間隔もなく、自分の手さえ見えない。  黒ければ死んだのかとも思ったかも知れないが、こうも白いと感覚が違う。  「あぁ、夢だ……」  どこか達観した思い出、わたしは宙ぶらりんだった。  ――白いのは良くない。  それは夏のお日様を思い出す。  ――お日様は良くない。  それはひまわりを連想させる。  ひまわりは大嫌いだ。  「なにか楽しいこと考えよ」  う~ん、と頭をひねる。  学園生活も家庭にも、あまり面白いことはない。  むしろ、嫌なことばかり。  思えば、わたしの記憶の大半は、人に無視され続ける、温かみのない無味無臭なものだった。  子供の頃は良かった。  貧しかったけど、お父さんもやさしかったし、お母さんも生きていた。  数は少なかったけど、友達もいた。  泥だらけになるまで遊んで、また明日、と希望をもって別れる事ができた。  だけど、わたしが成長するに従って友達と――味方と呼べる人間は減っていった。  多分、外見の変化と、汚れてしまったのがいけないのだ。  大人になるのは嫌だった。  大人は、わたしは悪くないのだと微笑みかけた。  可哀相にと頭をなでたりもしたけど、目はそんな色をしていなかった。  ――人の顔はモノを語る。  目の色や瞳孔の収縮の具合。  頬の筋肉の動きから人の心を見ぬいていまう。  そんな酷い才能のために、わたしは魔女のようだと言われた。  『あの人のこと好きなんだよね』  『本当のこと言ってよ』  『我慢する必要なんてないんだよ?』  無垢だった一言が、多くの人間を傷つけた。  まだ子供だった時代から、お父さんのせいではなく、わたし自身の噂で人が離れた。  黙って窓の外を眺める休み時間。  人気のない場所を探す昼休み。  一人で歩く登下校の道。  遠足の班決めでは、いつもわたしだけが最後まであぶれた。  いつからか、わたしの目は人を見なくなった。  雲とか道端の草とか、下か上を向いて歩いていた。
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