お弁当

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 「え?」  「なんでそんなに先生のこと毛嫌いするんです。なにかあったんですか?」  カップに湯気の立つ湯を注ぎながら繰り返す。  「別に……ただ、わたしは真面目に絵を教えて欲しいだけよ」  筆を止めずに、先輩が答える。  「それなら、誉められたらよろこばなきゃ」  「今日は、やたらとあの男の肩をもつんだね?」  「今日は本当に機嫌悪いですね」  僕は苦笑いしつつ、いつものようにコアラを模したマグカップを手渡した。  「真面目に絵を教えて欲しいって、先輩も一昨日は、なんで休んでたんですか?」  「ん、ちょっと……」  眉根をよせていた先輩だが、なにかに気付いて、カップに顔を寄せる。  「これ、ココア?」  「甘いでしょ」  「っ、うふふふふ……うん、らしくないねわたし」  ふーふー、とココアを冷ましながら、先輩がいつもの笑顔を浮かべる。  「ちょっと、最近気になることがあって神経質なのかな」  「一昨日のことにも関係が?」  「……どうかな」  どちらともとれる微妙な角度で、首を曲げられる。  言う間にも、バニーガール姿のかかしが描きくわえられた。  「……そういえば先輩、昼ご飯どうします?」  「あー。どうしよ。クーラーの部屋から外に出るの嫌だなぁ。出前でお蕎麦でも頼もうか?」  深く椅子によりかかり、彼女は天井を見上げた。  「あっ、じゃあ、僕の弁当食べません?」  「う!」  ビクッ、と肩を震わせて先輩が泣き笑いのような顔を向ける。  「お……お弁当、2人分作ってきたの?」  「そうですよ」  空いている机を先輩の前まで運んで、今朝作ってきたお弁当を広げる。  「しかも、遠足に持ってくような重箱だねコレ」  「的確な表現です」  「妹が友達とピクニックに行くっていうんで、頼まれたんですよ。で、どうせだから先生や先輩と食べようと思って」  「い、妹さん、たしか家政科だよね?」  「そうですね。昔から、音楽と家政科の成績だけはいいんですよ」  水筒から冷えた麦茶を注ぎ、食事の準備を終える。  「タコさんウィンナーに、リンゴのうさぎさんか。本格的なんだよね~」  なんだか項垂れながら、先輩が箸をとる。  味見はしたが、やはり、緊張する。  ――パク    「……どうです? ちょっと暑いんで、料理が傷まないようにと味付けが濃かったかも知れないんですけど」  
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