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口元に手をあてて、みく先輩は僕が冗談でも言ったかのように、くすりと笑う。
ぴと、と指が額に触れる。
「直也くんがぁ、私に教えるんだよ」
だよ、だよ、だよ~、と語尾が耳に木霊する。
「……そうなんですか?」
「そうよ」
「……」
足が止まる。
少し考えよう。
「……え~と、ちょっと待って下さい。根本的に、それと先輩の不機嫌な理由と、何の関係があるんです?」
「だから、一昨日は成績表を受け取ったあとで、“このままじゃ落第になるぞ!”って、お叱りの言葉をもらってたの」
教師の物真似でもするように、先輩がエヘンと胸を張る。
「冗談、ですよね……?」
「冗談は私の成績だけだよ」
それこそ、冗談にしかならないような台詞を、指を立てて至極真面目に答えられる。
「……つまり、年下の僕が、みく先輩に勉強を教えると」
「そうそう!」
片言の日本語しか話せない人にようやく意味が通じたとばかりに、先輩は大喜びする。
クラッカーでも隠しもってそうな勢い――。
――パン
小気味よい音がして、紙テープが頭にかかった。
「ピンポン、ピンポ~ン。たっきゅう♪」
どこに仕込んでいたのか、超能力者なのか、そもそも本当にこれで僕より年上なのか……。
「……」
頭が、痛い。
朗らかに微笑む先輩の向こうで、こうもりがパタパタと飛んでいるのが見えた。
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