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なにが行われるのか分からないほど、鈍感ではない。
なぜか、それほど珍しい儀式でもない。
外出用のおしゃれな服装は暑そうで、そんな姿でずっと待っていたのか、女の子は額と頬に汗をかいている。
うっすらと化粧をしているが、慣れてないのか、目の下のくまが見て取れた。
こてこてに可愛い。
ただ、分からないのは、どうして僕なのかという一点だけだ。
その一点が大きい。
「あ、あの、彼女いますか!?」
名前も名乗らず、前置きもなかったが、そでもその初々しさは可愛かった。
「……いや、残念ながら」
軽く微笑みながら首をふる。
とりあえず、先輩には頬をつねられそうな笑顔だと自虐的な思考が浮かぶ。
好感触ととったのか、女の子の顔が赤みを帯びた。
「よかった!」
「……っと」
ずい、と女の子が前に出て、僕の背中が路地の壁に触れた。
「あの、良かったって、なにが良かったの?」
「そ、それは、難しいんですけど、とりあえず最低条件だけはクリアしたというか、2号さんにされても困ると言うか……」
「あの……」
「あ、 いや、2号さんでもいいんですけど、できれば1号の方が――」
堰を切ったように、女の子はまくしたてる。
『変身ヒーローになりたいの?』とか『君はそんなに分身できるの?』とか、何パターンかの切り返しが浮かんだが、やめた。
どうにも冗談が通じそうにはない。
「もちろん、私よりも凄く美人で、器量もよしで、おまけに明るい人がいるのでしたら、喜んで身を退かせて頂きたいと思わくはないと――!」
「……分かった。分かったから落ち着いて」
とんとん、と女の子の肩を叩く。
「お、お、落ち着いていいんですか!?」
「……落ち着かんでどうする」
思わず呻いてしまう。
「でも、直也せんぱいと話せるなんて嬉しくて!]
「は?」
「だってせんぱい、頭はいいし、運動神経み抜群で、妹さんとか誰にでもやさしくて、お料理も絵も上手で――っ!」
と、今度は前にしか見ていない女の子が、僕が置いた鞄に足をひっかけた。
――トン
「……」
「……」
慌てて受け止めた腕の中で、女の子が僕を見上げた。
ただ、それだけだった。
特に狙ったことでもない。
多分、この子がコテコテのドラマ体質なのだろう。
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