校内コンクール銀賞

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 だが、僕の目は、そんな生半可なものではなく、神がもたらしたような芸術品に、キリストのように釘付けされていた。  「……恥ずかしいから、あんまり見つめないで」  真っ赤になりながら先輩がうつむく。  「あっ、いや、そこだけは……!」  「! ひどい、そんな焦らさないでもっと――」  「……いや、先輩、その狙ったような不穏当な発言はやめてください」  どこぞの誰かが通りかかったら(通りかかる道がないが)、誤解ではすまない。  「だって~♪」  「……だって、ってね」  「う~……抱きついていい直也くん?」  「やめてください」  ピシッ、と言うが、ため息も漏れた。  部屋におかれた丸机に向かい合って座り、先輩から受けっ取った紙を示す。  成績表と書かれたそれは、酷くいびつな数字がフィーバーしていた。  「……これ、5段階評価じゃないですよね?」  「うん」  先輩が、項垂れたとこらからさらに頷く。  (……と言うか、10段階でも大して変わらない)  昨日言っていた通り、この数値は本当に冗談ではない。  「……テストも学年でビリから二番目」  「あ、それ、お休みでどうしても出れない子がいたんだよ。ラッキー♪」  「……」  「なんか汗かいてるよ直也くん?」  パタパタ、と先輩が僕をうちわで扇ぐ。  「……よく今まで大丈夫でしたね」  「こう、黙って窓の外を見つめてるだけなのにね、内申と美術だけは良かったの」  頬杖をついて、先輩が物憂れげに窓を見つめる。  見事に、黙っていればお嬢様ってやつだ。  「分かり易い」  「うん。今まではそれでOKだったけど、今年はにんな受験だからって、わたしとの差が段々と広がっていって……よよよ」  目元を押さえて、先輩が捨てられた芸子さんのように膝を崩す。  「……ふざけるくらいには余力はあるんですね」  「うぅ、冗談だよぉ~」  身を起こして、先輩もため息をつく。  「……それで、僕はどの教科を教えればいいんですか?」  鞄を漁り、ごっそりと手持ちの教科書を広げる。  「うぅ。……こんなに漬け物石が……」  先輩が嫌そうに眉をよせる。  余計な誘導にはのらないことにした。  「通ってきた道でしょうが」  「通ってないから困ってるんだよ~」  「泣き言は聞きません」  ぴしり、と言う。    
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