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――こほん
「……あっ! かかしが走ってる!」
「えッ!? かかしどこ?」
むくり、と先輩が起きあがり、すごい勢いで窓に駆け寄った。
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すたすたと、ようやく目覚めたらしい先輩が、窓辺から帰ってくる。
「……何か夢を見てたんだけど忘れちゃった」
「夢なんて見ないで下さいよ」
恐ろしい事を可愛くさらりと呟く先輩に、思わずチョークスリーパーをかけたくなる。
「どこまで分かりました?」
「……え、これ」
首のうしろをつつまれが子猫のように、先輩は目をこすり、ノートをさしだす。
「――ぐっ!」
「あははははは」
笑いごとではなく、ノートには頬杖をつく僕の絵が描かれていた。
(う、上手いな)
「でも、こんなカッコ良くないですよ」
「そうかなぁ、見たまんま描いたけど?」
「いや、先輩の絵ってちょっと過剰演出だから。この目とか、なんか潤んでません?」
「だから潤んで光ってたんだって」
「そんな……いや、違う違う……」
頭をふって、今が何の時間かを思いだす。
お遊戯とお昼寝の時間でないことだけは確か。
「こんなことじゃ誤魔化せませんよ」
「ちょっと引っかかってたのに」
「……分かりました。教科を変えましょう」
「保健体育?」
「……絶ッ対、言うと思いました。」
額を押さえて、僕は別の教科書を広げた。
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「今日はここまでにしましょう」
パタン、と全ての教科書や参考書が積み上がる。
「え、もう?」
先輩につられて時計を見ると、確かに、始めてから1時間しか経っていない。
「様子見でしたからね、気にしないで下さい。
「……そうなんだ」
やりたりないと言うわけでないのだろうが、先輩は鉛筆を口元にあてて、鼻歌混じりに最初に描いた僕の落書きを眺めだす。
(しかしなぁ……)
並べられた教科書と成果を見ると、どうにも、1年の頃の教科書を持って来ないとだめそうだ。
イカリングのように歯ごたえがありすぎる。
「……やれやれ」
「お疲れ?」
「いや」
「じゃあ、教室でコーヒーでも飲もう。そしたら一緒に遊びに行くの」
本当に楽しそうに、先輩が僕に手をさしだす。
「……」
「ほら、夏休みがもったいないよ♪」
空いた手を腰にあてて、先輩が頬を膨らませる。
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