第1話 紺碧の天使

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 「う~、どうしようかなぁ……」  天井を見上げて、彼女が呻く。  珍しく往生際が悪いところを見ると、体重が増えただの、田舎暮らしが嫌だだのと言う、いつものネタではないらしい。  「なんですか一体?」  「……あ、あはは。ま、いいや。あんまり深刻なことじゃないから気にしないで」  「そう」  あまり深く追及するのもなんなので、大人しく身を退いた。  視界の隅で、『ごめんね』と先輩が小さく口を動かすのが見えた。  彼女は荷物を鞄にしまい込んで、帽子をかぶる。  「? もう帰るんですか?」  「うん。なんか今日はダメダメ。君も帰りたかったら、鍵はいつもの場所に置いとけばいいから」  「はい」  「それじゃ、また明日」  手だけで答えて、僕はキャンバスに向き直る。  「あ、そうだ直也くん」  「はい?」  開け放たれた扉の外、眩しい陽光を背に彼女が笑っていた。  「あはは。今年も良い夏休みだといいねぇ」  「……」  ――バタン  ・  ・   ・   ・   ・   「……」  僕は頬を描くと、自分の絵を片づけるついでに先輩のキャンパスをのぞき込んだ。  「なんだこれ?」  そこには、射るような眼差しで絵を描いている僕の姿と、僕を背中から抱きしめる碧眼の天使が描かれていた。
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