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「ところどころ思い出した。……私がお前のいる村に行ったのだったな。会わなければお前を闇の世界へ引きずり込むようなことにならなかったものを。すまない」
「いいえ、あなたに会えてよかった」
穏やかにそう言ってシャナンが教会の扉を押し開くと、冷たい空気が二人の頬を刺すように吹き込んできた。
カナーンの黒いマントが風になびく。
昼日中ではあったが、真冬の空は雪雲が陽の光を遮って鉛色に染まり、吸血鬼には好都合だった。
ちらほらと雪も舞い落ち始めた。
「雪だわ」
シャナンが片腕を伸ばし、落ちてくる雪を手のひらに載せた。
雪は融けずに美しい結晶の姿を保っている。
「綺麗。宝石みたいね」
そう言ってシャナンはカナーンに微笑みかけた。
カナーンもそれに応えるように微笑んでシャナンの手をとり、うやうやしく手の甲に口付けた。
そして、「シャナンのほうが美しい」と言って目を細めた。
「そうやって、いつも私を見ていてくれる?」
「勿論」
教会の前を寄り添って歩く二人は、今この教会で永遠の愛の誓いを立てた新郎新婦のように仲睦まじく、闇に潜む吸血鬼とは思えないような晴れやかな姿だった。
カナーンの血で染まった黒いマントから、降り積もった真っ白い綿雪の上に、深紅の雫がぽたりと落ちた。
それは、元は人の血だ。
人の犠牲の上に生き、生きている限り罪を重ねる吸血鬼なのだから。
愛する人と幸せに過ごすなど、自分には過ぎたことだとシャナンは思う。
それでも、カナーンと共に生きられるのであればそう願わずにはいられなかった。
遠い遠い昔に引き裂かれ、さまよい続けてきた二人は、ようやく並んで歩けるようになったのだ。
そして、二人は生き続ける。
二羽の黒い鳥が、雪の中を舞った。
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