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「シャナン……」
「カナーン! なに? どうしたらいいの?」
苦悶の表情を浮かべながらも、カナーンはシャナンに必死に何か伝えようとしていた。
カナーンの声が聞き取れず、シャナンはカナーンの口元に耳を寄せた。
「シャナン……すまない」
「何を謝るというの? あなたをこんな目に合わせてしまって、謝るのは私のほうなのに!」
カナーンはうっすらと瞳を開き、微かに笑ったようだった。
「大丈夫……生きて……」
何かに逆らうように上げられたカナーンの片手は宙をさ迷い、シャナンの頬にたどり着く前にぱたりと床に落ちて、同時にその瞳も閉じられた。
「カナーン! いやーーーっ!」
シャナンは覆いかぶさるようにしてカナーンを抱き締め、絶望した。
教会内に立ち尽くしていた十人ほどの制服姿の女学生達は、それと同時に意識をなくしてぱたりぱたりと次々とその場に崩れるように倒れていった。
「カナーン、私一人……何のために、生きるの? ……私も、あなたと一緒に、灰に……」
シャナンは、はたとカナーンの胸から顔を上げた。
「灰……」
カナーンは息絶えたように見えたが、まだ灰にはなっていなかった。
これはどういうことか。
シャナンは涙をぬぐって、床に横たわるカナーンをまじまじと見つめた。
「カナーン……生きている? カナーン!」
シャナンはカナーンの両肩をつかんで揺り動かした。
カナーンの体は未だだらりとしたままで、意思を持っているとは思えなかった。
シャナンはカナーンの上体を起こして、背中の傷の辺りに恐る恐る手をやってみた。
そこに傷らしきものは触らなかった。
銀の短剣によって深く傷ついていた背中が癒えていたのだ。
「大丈夫なのね! そうなのね! 」
シャナンはカナーンを抱き締めた。目には嬉し涙を滲ませて。
「はるや、有難う」
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