5人が本棚に入れています
本棚に追加
「痛っ、本調子ではないのだから大事に扱ってくれ」
「なによ。あなたのキス、乙女の匂いがしたわ。あなた、私が捕まっていた間に何をしていたの?」
「なにも」
カナーンはニヤニヤしながらそううそぶいた。
シャナンは本気で怒っているわけではなかった。
ただ、カナーンがいつまでもまじまじとシャナンの顔を見つめているので、カナーンとまともに向き合うのが恥ずかしかったのだ。
「ああ、せっかくの純白のドレスが台無しだな」
カナーンは血で染まったドレスを隠すように、シャナンの肩に手を回してさり気なく黒いマントで覆った。
そのマントもまた、カナーンが流した大量の血によって濡れており、乾ききらない血が、ひたひたと足元に垂れていた。
壮絶な戦いでカナーンが生死をさ迷っていたことを改めて実感し、シャナンは身震いした。
だが、傍らにはカナーンがいる。包み込まれている安堵感。
居心地の良さに、シャナンはうっとりと目を瞑った。
「シャナン、機嫌を直してくれぬか」
シャナンはカナーンのほうへ顔を向けた。
カナーンの琥珀色の瞳には、シャナンが映っていた。
それがわかるほど二人はしっかりと寄り添っていた。
「怒ってないわよ。こうしてあなたはここにいる。その瞳には私が映っている。それでいいの。ずっとあなたを探し続けていたんですもの」
シャナンはカナーンに微笑みかけた。
長い長い旅の末、カナーンを手に入れた。
もう絶対に離さない。
シャナンは心の中でそう誓い、カナーンの肩に寄りかかった。
「言っておくが、お前を見初めたのは私が先だ。そのことは思い出したぞ」
まるでシャナンの胸のうちを除き見たかのように、カナーンはシャナンから視線を外して照れくさそうに呟いた。
カナーンの、無骨な愛情表現だった。
シャナンは嬉しさに頬を染め、カナーンの腕に巻きつけていた手に力を込めて握り締めた。
「私と出会った頃のこと、少し思い出した?」
最初のコメントを投稿しよう!