第3話

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「痛っ、本調子ではないのだから大事に扱ってくれ」 「なによ。あなたのキス、乙女の匂いがしたわ。あなた、私が捕まっていた間に何をしていたの?」 「なにも」  カナーンはニヤニヤしながらそううそぶいた。  シャナンは本気で怒っているわけではなかった。  ただ、カナーンがいつまでもまじまじとシャナンの顔を見つめているので、カナーンとまともに向き合うのが恥ずかしかったのだ。 「ああ、せっかくの純白のドレスが台無しだな」  カナーンは血で染まったドレスを隠すように、シャナンの肩に手を回してさり気なく黒いマントで覆った。  そのマントもまた、カナーンが流した大量の血によって濡れており、乾ききらない血が、ひたひたと足元に垂れていた。  壮絶な戦いでカナーンが生死をさ迷っていたことを改めて実感し、シャナンは身震いした。  だが、傍らにはカナーンがいる。包み込まれている安堵感。  居心地の良さに、シャナンはうっとりと目を瞑った。 「シャナン、機嫌を直してくれぬか」  シャナンはカナーンのほうへ顔を向けた。  カナーンの琥珀色の瞳には、シャナンが映っていた。  それがわかるほど二人はしっかりと寄り添っていた。 「怒ってないわよ。こうしてあなたはここにいる。その瞳には私が映っている。それでいいの。ずっとあなたを探し続けていたんですもの」  シャナンはカナーンに微笑みかけた。  長い長い旅の末、カナーンを手に入れた。  もう絶対に離さない。  シャナンは心の中でそう誓い、カナーンの肩に寄りかかった。 「言っておくが、お前を見初めたのは私が先だ。そのことは思い出したぞ」  まるでシャナンの胸のうちを除き見たかのように、カナーンはシャナンから視線を外して照れくさそうに呟いた。  カナーンの、無骨な愛情表現だった。  シャナンは嬉しさに頬を染め、カナーンの腕に巻きつけていた手に力を込めて握り締めた。 「私と出会った頃のこと、少し思い出した?」
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