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幼い弟妹がいる内田は、ついつい散らばったビニル袋を拾って、「ご自由にお使いください」と書かれた段ボール箱にビニル袋を放り入れていた。
(こんなことしてる場合じゃないんだけどな……。)
亜希を捜し回って、早30分。
このままだと、会えず仕舞いの可能性も出てくる。
(……にしても、進藤の奴、居なくなるの早過ぎ。)
そんなことを思っていたら、タタタッと言う靴音と共に、探し回っていた亜希が目の前の階段を降りてきた。
(……し、進藤!)
内田は声をかけようとしたが降りてきた亜希が、今にも泣き出しそうな顔だったからタイミングを逃す。
(……あっ。)
その瞬間はスローモーションのようだった。
亜希が内田の肩にぶつかってくる。
そして、顔も見ずに会釈をして再び駆け抜けていく。
(アイツ、泣く……。)
小さくなる亜希を見失わないように、人混みを躱して追い始める。
そして辿り着いたのが、この銀杏の下だった。
辿り着いた時には、亜希のいる情景が、静止画みたいで息を呑んだ。
青い空に銀杏の葉、そして、ほろほろ泣いてる亜希の姿。
声は、しばらくかけられなかった。
(――誰だよ、こんな風に泣かせた奴。)
内田は心中穏やかではなかったが、泣き腫らした目が痛そうで、亜希に声をかけたのだ。
失恋したと自分で認めたせいか、亜希は結局ぼろぼろと泣き出して内田に借りたハンカチで目をこすりこすり泣いた。
「それにしても、酷い不細工になってるぞ?」
「……うるはい。」
ティッシュで鼻をかみながら、内田に文句を言う。
「で、進藤を泣かせたのは、どんな奴なわけ? 俺より良い男?」
内田が「ん?」と言いながら、覗き込んでくる。
「……それは言わない。」
「なんだよ、こんなに親身になってやってんのに。」
内田が口を尖らせる。
「……そうだなあ。内田より数倍いい男!」
「げ、どんな奴だよ。それ。」
「『味方』になってくれるヒトなの。」
「でも、振られたんだろう?」
「うん、他に彼女がいたの。」
「……ふーん。告って、そう言われたわけ?」
「そうじゃないけど……。」
「なんだよ、告白前に『振られた』って言ってたのかよ。」
内田は肩を竦めるとごろんと地面に寝っ転がった。
その後もしばらく二人で話し込む。
気付けばすっかり涙は引いていた。
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