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「泣き止んだみたいだし、そろそろ行くか。」 「……へ?」 「今日は俺をその男の代役だって思って、回ればいいじゃん。」 「――ええーっ、内田が代役ぅ?」 「なんだよ、文句あっか?」 「大アリだよー! 何か見返り要求されそうじゃん。紗智なら絶対、焼きそば奢れって言うもんッ!」 「んなッ! 片桐ならやりかねないけど、俺はしないっつぅーのッ!」  その後も内田と話していく中で、だんだんと亜希の心は落ち着いていく。  亜希は立ち上がり、砂を払った。 「本当に?」 「当たり前だろッ!!」 「じゃあ、来てもいいよ。」 「うわ、上から目線。」  内田もぱんぱんと、砂を払う。 「本当に奢らないからね?」 「分かってるってばッ!」  そう言いながら、内田が亜希の手をとる。  ――柔らかい手。  自分のゴツゴツした手に比べるとちっちゃくて、マシュマロみたいだ。  そして、そのままきつく手を握り締めた。 「ちょっと?!」 「……進藤の好きな男、今日は校内にいるんだろ?」 「う、うん、まあ……。」  ふにふにと感触を楽しむように握ると、亜希はキョトンとして内田を見上げる。 「じゃあ、見せ付けてやろうぜ。」 「へ?」 「……で、後悔させてやればいい。」  内田は亜希の手と大きさ比べをする。  指は関節一個半くらい小さい。 「……子供みたいな手をしてんのな。」  キュッと亜希の手を握り直すと、口元に持っていき、手の甲に口付ける。 「――ちょっ! せ、セクハラぁぁッ!」 「……進藤、『セクハラ』の使い方、間違ってない? ――セクハラって言うのはだなあ。」  内田はひょいと亜希のスカートを捲る。 「なあんだ、テニスのスコートか。」  亜希はパクパクと口を開けしめして、わなわなと肩を震わせる。  そして、腕を振りぬくと、バチーンと高い音を立てた。 「痛あぁぁーっ!」  頬っぺたに手形の付いた内田と、真っ赤な顔をした亜希の二人組は、手を繋いだまま体育館裏を後にする。 「次、やったら、タダじゃおかないから!」 「既に、手が出たでしょーが。」 「ふんっ!」  亜希は鼻を鳴らす。 「でも、元気出たな。」 「喧しい!」  ケラケラ笑う内田のペースに引っ張られて、亜希も徐々に笑顔を取り戻す。  さっきまでの鬱々とした気分は、頭に血が上ったのもあって吹っ飛んでいた。
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