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そう考えながら歩くと、まるで三年間通っていた思い出まで無くなってしまうような気がしてきて、淋しくて堪らなくなる。
4階に収まらない3-5を目指して、紗智と休み時間ごとに何度も通った階段ももうすぐ無くなる。
(……久保センの生徒で居られるのも、あと半年だけ。)
亜希は通い慣れたプレハブ校舎の階段の踊り場で立ち止まった。
小学生くらいの子が綿飴を持って駆け上がってくるのを避ける。
通い慣れた学校なのに、何だか知らないところに迷い込んでしまったみたいに心細い。
去年の文化祭は紗智と回って、まさか今年の文化祭でこんなに気持ちになるだなんて想像してなかった。
(……淋しい、よ。)
巡回中と聞いていた久保の姿も、どこを探しても見つからない。
あまりの心細さに心がポキリと音を立てて、折れてしまいそうだ。
いつだったか紗智が「翔が傍に居なかった頃を思い出せない」と笑って話していたのを思い出す。
久保に会う前の自分はどんなだっただろうか。
もう思い出せない。
(……どこにいるの?)
焦りにも似た気持ちが胸を締め付けてくる。
胸がツキン、ツキンと痛む。
――会いたい。
ほんの一瞬でも良い。
それだけでこの焦燥感は紛れるに違いない。
(準備室かな……。)
ポニーテールをなびかせて、亜希は国語科準備室へとゆっくり歩き出す。
そのころ、国語科準備室内では、久保が机に突っ伏して仮眠を取っていた。
腕時計は14時を指し示している。
しばらくして、コンコンとドアをノックする音に目を覚まし、そのままの格好で二、三度瞬きをした後で、むくりと机から身を起こす。
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