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「タカ……? ちょっと!!」  久保は皐月の制止を振り切って走り出していた。 「――進藤ッ!」  亜希のスカートのフリルが揺れる。 「進藤、待てって……!」  50メートルくらい駆け抜けて、階段の踊り場で亜希に追いつくと、手を伸ばしてその細い腕を掴む。 「――逃げんなよ。」  荒い息のままで、黙り込んでいる亜希を見つめる。 「……誤解するなよ? 皐月とは、もう何でもないんだから。」  ――浮気現場を見られて、弁解するような言い訳。  亜希は深く呼吸をすると、久保ににっこり笑ってみせた。 「……進藤?」  久保は怪訝そうな表情に変わる。 「――久保セン、私、言い触らしたりしないからさ。そんなに必死にならなくていいよ?」  久保が言葉を詰まらせる。 (そうじゃない……。)  そんな理由で亜希を追い掛けたわけじゃない。  しかし「何の為に走ったのか」と問われたなら、今は上手い答えが見付からない。  ――嫌われたくない。  その想いだけで 衝動的に走っていた。 「……久保セン、私、友達と回る約束してるの。」  沈黙を破って、亜希が口を開く。  その言葉に久保はただ「ああ」と答える事しか出来なかった。 「……じゃあね。」  亜希が再び階段をかけ降りていく。  久保は亜希が立ち去った階段の踊り場で立ち尽くす。  追い掛けてきた皐月が階段を降りてくる。 「タカ……?」  普段、温厚な久保が噴火間近の火山みたいに怒りを押し殺して立っている。  皐月は嫌な予感がした。 (……まさか。)  さっきの女の子は、間違いなく自分達より年若かった。  きっとこの学校の生徒か何かに違いない。  ――目眩がする。 (いくらなんでも、それは……。)  いくら「恋愛」のあり方に柔軟になってきた日本でも体裁の問題がある。 「……まさかとは思うけど、手、出してないよね?」  皐月の言葉に久保の握りこぶしに力が入る。  その姿に皐月は気圧された。 「……タカ、『教師と生徒』だよ? 分かってるの?」  久保が何も言わないまま階段を降り始めるから、皐月はその腕を引き止めた。 「タカ、聞いてるの?」 「ああ。」  そして、振り返ると、皐月を壁際に追い詰める。
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