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一方、その頃、亜希は体育館裏に蹲っていた。
久保に背を向けて、階段を駆け降りた後も、歩みを止められずに闇雲に校内を走り抜けた。
どこをどう走ったか分からない。
途中で人にぶつかって、頭を下げる。
しかし、頭の中は久保と皐月の事でいっぱいだった。
(――久保センは私よりもずっと年上だ。……彼女がいたって、別におかしくない。)
綺麗なヒトだった。
スタイルが良くて、久保と腕を組んでる様子も、釣り合いが取れてた。
(……私はあんな風になれない。)
どんなに背伸びをしても、久保と釣り合わない。
(何でもっと早く生まれなかったんだろう……。)
そしたら、もう少し今よりも大人びていたに違いない。
亜希は全力疾走に近い状態で走ったから、うまく息を吸えなくなって、倒れこむようにして銀杏の木の下にしゃがみこむ。
――喉が痛い。
止まった途端に鼓動がやけに大きく聞こえ、身体中が沸騰したように暑い。
見上げると抜けるような青い空で、緑のハート型の葉が日に透けてキラキラと見える。
(……綺麗。)
亜希の頬を涙が伝う。
手のひらで拭っても、すぐに視界が涙に歪んでいく。
鼻の奥はつんと痛いまま、何も考えられなかった。
「……進藤?」
問い掛ける声に顔をあげると、内田が見える。
「どうした……?」
「別に。」
「人が心配してんのに。」
亜希は肩で息をしていた。
内田は胸ポケットから皺くちゃのハンカチを取り出すと亜希に渡す。
「……こんなんだけど、洗濯してあっから。」
「ありがと。」
ハンカチを受け取ると、亜希は涙を拭いた。
目が腫れて痛い。
(――酷い顔。)
亜希が短くため息を洩らす。
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