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 内田はドサッと亜希の隣に腰を下ろした。  静かに時が流れる。 「……俺が居てやるから泣いちゃえば?」  ぼそりと内田が言う。 「……はい?」 「理由はよく分からないけど、つらいんなら泣いちゃえばって言ってんの。」 「……内田が居たら逆に泣けないよ。」  亜希の声は柔らかだったが、はっきりと「これ以上は立ち入るな」と線を引いてくる。 「――片桐と喧嘩したとか?」 「違うよ……。心配しないで。」  まだ残暑の厳しい中だから、じんわりと汗を掻きはじめる。  でも、空の光は既に秋のそれで、風も秋風に変わりつつある。  亜希が泣きそうな顔で、無理やり笑うから内田は眉を寄せた。 「――無理して笑うなって言ってんの! 誰かに何か言われたのか?」 「――ううん。単に失恋しちゃっただけ。」 「……失恋?」 「そう。」 「わ、悪い……。」  ずきんと胸が痛む。  内田はバツの悪い思いに思い切り顔をしかめた。 「そんな顔しないでよ……。私が泣きたいのに。」 「あ……あ、うん。」 「ところで、なんで内田はこんなところにいるの?」 「……あ、歩き疲れたから?」 「――店は?」 「渡辺と交替してもらったよ。」  亜希はじっと内田を見つめてくる。  その様子にどぎまぎしていると、亜希は内田のワイシャツの袖を引くと上目遣いに訊ねた。 「……もしかして、捜してくれてた?」 「……い、いやあ?」  図星を突かれて、声が裏返る。  本当は亜希と校内を回りたくて、半ば無理矢理に店番を交代して貰った程なのだが、それを口説き文句に使える技量はない。 「ぐ、偶然だよ!」 「本当に?」 「ああ!」  内田は赤面しながらも必死に誤魔化すと、亜希に顔色を見られないように顔を背けた。 (――進藤と一緒に回りたくって、校内を捜し回ってたとか、絶対に言えねえ。)  そんな格好悪い自分は、見せたくない。  しかし、亜希はくすりと笑うと、小さく「ありがと」と呟いた。 「……え、何? 今、何て?」 「何の事? 私、何も言ってないよ?」  とぼける亜希の様子に、肩を竦める。  内田はふと脇目も振らずに、ここまで走ってきた亜希の様子を思い返した。
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