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7
高校三年、十月。
文化祭の後から、久保は距離を置くようになった。
授業中に近くまで回ってきても、視線を合わせてくれない。
放課後に分からない問題を教えて貰いに行っても、素っ気なく、どこかよそよそしい。
「はあ……。」
「亜希、ため息なんかついてどうしたの?」
紗智のアップに出迎えられて、目をぱちぱちとさせる。
「ははあーん、さては内田と何かあった?」
「いや、何も無いけど。」
亜希の淡白な回答に、紗智が顔を近付けて、ひそひそと訊ねてくる。
「……学園祭がきっかけであんた達付き合い始めたんじゃないの?」
「んなッ! 違うよッ!」
力一杯、否定する亜希に目を丸くさせながら、再びひそひそと話す。
「でも、二人で楽しげに校内を回っていたって聞いたよ?」
「……そ、それは。」
久保への当て付けで、内田と一緒に回っただなんて、紗智には言えない。
「二人が付き合ったら、面白いって思ってたのに。お似合いだよ?」
無邪気に笑う紗智の言葉に、亜希は押し黙る。
――お似合い。
もしかして久保もそう思っているのだろうか。
そう考えただけで、胸がツキンと痛む。
「亜希も彼氏を作れば良いのに。」
紗智に久保と同じ事を言われて、苦笑いを浮かべる。
「……そう簡単に、出来たら苦労しないよ。」
「内田じゃダメなの? 人気者だし、優しいし。」
「ダメじゃないけど……。」
紗智はニコッと笑うと、いたずらっ子のように楽しげな表情に変わる。
「……って、今、何か悪巧みを思い付いたでしょ?」
「ソンナ事ナイヨ。」
「――日本語、片言になってますけど?」
すると、紗智はフフッと笑って携帯を取り出した。
「――今度ね、翔と遊園地にデートに行くの。」
「それで?」
「高校生活も、あと僅かだし、一緒に遊園地に行こうよ。」
「……それって翔とのデートの邪魔になるだけじゃん。」
呆れながら答えても、紗智はめげる気配がない。
「大丈夫だよ、ダブルデートだから。」
「……ダブルデート?」
「そっ!」
そして、亜希の目の前でパチパチとメールを打ち始める。
「亜希は奥手過ぎるよ。デートしたくないの?」
本当は久保とデートがしたい。
遊園地だなんて贅沢は言わない。
ただ傍にいてくれるだけで構わない。
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