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 高校三年、十月。  文化祭の後から、久保は距離を置くようになった。  授業中に近くまで回ってきても、視線を合わせてくれない。  放課後に分からない問題を教えて貰いに行っても、素っ気なく、どこかよそよそしい。 「はあ……。」 「亜希、ため息なんかついてどうしたの?」  紗智のアップに出迎えられて、目をぱちぱちとさせる。 「ははあーん、さては内田と何かあった?」 「いや、何も無いけど。」  亜希の淡白な回答に、紗智が顔を近付けて、ひそひそと訊ねてくる。 「……学園祭がきっかけであんた達付き合い始めたんじゃないの?」 「んなッ! 違うよッ!」  力一杯、否定する亜希に目を丸くさせながら、再びひそひそと話す。 「でも、二人で楽しげに校内を回っていたって聞いたよ?」 「……そ、それは。」  久保への当て付けで、内田と一緒に回っただなんて、紗智には言えない。 「二人が付き合ったら、面白いって思ってたのに。お似合いだよ?」  無邪気に笑う紗智の言葉に、亜希は押し黙る。  ――お似合い。  もしかして久保もそう思っているのだろうか。  そう考えただけで、胸がツキンと痛む。 「亜希も彼氏を作れば良いのに。」  紗智に久保と同じ事を言われて、苦笑いを浮かべる。 「……そう簡単に、出来たら苦労しないよ。」 「内田じゃダメなの? 人気者だし、優しいし。」 「ダメじゃないけど……。」  紗智はニコッと笑うと、いたずらっ子のように楽しげな表情に変わる。 「……って、今、何か悪巧みを思い付いたでしょ?」 「ソンナ事ナイヨ。」 「――日本語、片言になってますけど?」  すると、紗智はフフッと笑って携帯を取り出した。 「――今度ね、翔と遊園地にデートに行くの。」 「それで?」 「高校生活も、あと僅かだし、一緒に遊園地に行こうよ。」 「……それって翔とのデートの邪魔になるだけじゃん。」  呆れながら答えても、紗智はめげる気配がない。 「大丈夫だよ、ダブルデートだから。」 「……ダブルデート?」 「そっ!」  そして、亜希の目の前でパチパチとメールを打ち始める。 「亜希は奥手過ぎるよ。デートしたくないの?」  本当は久保とデートがしたい。  遊園地だなんて贅沢は言わない。  ただ傍にいてくれるだけで構わない。
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