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(……でも、それは叶わない。)
自分の気持ちに気付かずにいられたら、どれだけ良かっただろう。
――彼が好き。
その想いに溺れて、窒息してしまいそうだ。
授業中に久保が他の生徒を指名するだけで嫉妬してしまう。
旧校舎の踊り場を通る度に、文化祭の時の女性の事を詮索したくなる。
(こんな事を口にしたって、久保センを困らせるだけなのに……。)
それでも、嫉妬心と独占欲はどんどんと増えていく。
紗智は亜希が物思いに耽っている合間に、メールを作り終えると、ぽちりと決定ボタンを押して、メールを送信する。
「よし、送信完了! 後は内田からの返事待ち。」
「……内田?」
「そう、『ダメじゃない』んでしょ?」
「エエッ?!」
「部活のマネージャーやってて良かったあ~。」
「良かったじゃないよ!」
慌てて携帯を取り上げようとしてくる亜希を、器用に躱す。
「別にデートくらい良いじゃない。あ、ほら、返ってきたよ?」
「……ええ?! もう?」
「うん。」
「これは脈ありだ」と笑う紗智の手には、水戸黄門の印籠みたいに内田の「OK」のメールが届いていた。
そして、週末。
「……おっかしいなあ。紗智の奴、確かに入園口前に集合って言ってたよな?」
「うん……。」
既に10分以上、紗智と翔が来るのを待っている。
「待ちくたびれたな。」
「そうだね……。」
「とりあえず、中に入って連絡を待とうぜ。」
「へ?」
「遅れるあいつらが悪い。ほら、行くぞ!」
「ちょ……ッ。」
「せっかくワンデーパスポート。遊ばないと損だろう?」
するりと手を取られて、内田に引っ張られながら、遊園地の入口をくぐる。
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