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 五年の月日が経ち、立場は逆転する。 (……こんな事を訊ねるのは、ワインのせい。)  そう自分を納得させてから、亜希はそっと囁くように訊ねる。 「私ね、ずっと前から、あなたが好き……。」  ギュッと拳に力が入る。 「――何してても、貴俊さんの顔が浮かぶの。」  久保が手元の赤ワインのように顔を赤くする。  つられて、亜希も顔が火照ってくる。 「……貴俊さんは?」  すると、久保は「参ったな」と苦笑をした。 「譲るんじゃなかった。」 「え?」 「先、越された。」  そして、くしゃりと相好を崩す。 「――好きだよ。」 「どこが?」  真っ赤な顔をしながら訊ねてくる亜希の様子に久保はくすくすと笑う。  彼女はいとも簡単に、心の琴線に触れてくる。 (どうして、こうも俺の気持ちを煽るのが上手いんだか……。)  不安になるのも、淋しくなるのも。  嬉しくなるのも、愛おしさが募るのも。 (ここがレストランじゃなければ、どれだけ自分が亜希を好きなのか、身をもって味わってもらうのに……。)  あの髪に触れて。  あの唇に口付けて。  気が狂わんばかりに抱き締めたい。 「うーん、そればっかりは『後で』だな。」  自分にも言い聞かせるように、亜希に答える。 「……後で?」 「ああ。言葉じゃ伝えきれそうにないから。」  久保の意味ありげな視線に、亜希はぷくっと頬を膨らませる。 「……ケチ。」 「後で、たーっぷり教えてやるって。」  そこまで言われて、亜希は久保が何を言わんとしているのか思い当たって、声を大きくした。 「……なっ! や、やっぱり、いい!」 「遠慮しなくて良いぞ?」  久保が楽しげに笑う度に、胸がむず痒くて堪らない。 (……どうして、こうも私の気持ちを乱すのが上手なんだろう。)  さざ波が寄せては引き、寄せては引きを繰り返す。 「……亜希こそ、俺で良いわけ? 昔は、何とかってアイドルが好きだって言ってたのに。」  片眉を上げる仕草さえ、可愛らしく思えるから不思議だ。 (……何て答えたら良いんだろう。)  言葉に窮し、視線が泳ぐ。  しかし、亜希の視線はある一点を見つめると、ぴたりと動かなくなった。  振り返って、亜希の視線の先を見てみると、ウェイターが料理を運んでくる姿が見える。 「答えは?」 「あ、後で。」 「――了解。」  料理が運ばれてくる。  あたりは良い匂いが立ち込める。
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