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 様々に出されるコース料理を口に運ぶ。  それなのに久保の事を意識してしまって、ちゃんと味わう事が出来ない。 (このヒトの事が好き。)  それは確かだ。  でも、どこが好きなのかと問われたら、昔みたいには答えられない。 「美味かったな。」 「……あ、うん。」  目の前の久保は、美味しそうに食後のコーヒーを口にしている。 「……で、答えは出たか?」 「へ?」 「ずっと考え込んでたみたいだから。」  コツンと亜希のおでこを人差し指でつっついて、くすくす笑う。 「ほら、眉間に皺が寄ってる。」  呆気に取られた亜希の様子に、久保は目を細めた。 「テスト中に居眠りして、赤点取る奴が何を考え込んでるんだ?」 「……ちょっと、しつこいよ。」 「はいはい。」  ぷくっと頬を膨らませて、久保の手を振り払う。 「貴俊さんのどこが好きかって考えてたの。」 「……それで?」 「でもね、答えがまとまらない。」 「ふーん?」  申し訳なさそうに口にする亜希に、久保は抑揚なく答える。  数え始めたら、きっとキリがない。  それが「あばたもえくぼ」状態なのも分かっている。 「――それで?」 「え?」 「やっぱり帰る?」  首をぶんぶんと横に振る。 「じゃあ、もうちょっと考えてなよ。これから、ゆっくり教えてもらう事にする。」  そして、レストランの会計を済ませて、二人とも車に乗り込む。  連れて来られたのは、シンプルな内装のホテルだった。  スーツの上着をハンガーに掛ける姿にさえ、ドキドキする。  肩胛骨が薄布を通して動く様子に見惚れた。 「上着が皺になると面倒だろ?」  差し出された手に、自分の上着を預ける。  再び久保はクローゼットの方に向き直り、亜希の上着もハンガーに掛けはじめた。 (――このヒトが欲しい。)  久保の背中に吸い寄せられるように抱きつく。 (……温かい。)  シャツ越しに久保の温かさが伝わってくる。 (背中、大きい……。)  この温もりさえあれば、それでいい。  他には何もいらない。  亜希はうっとりと目を閉じる。  久保の心音なのか、自分の心音なのか分からないが、心地よいリズムを感じる。  愛おしさが胸に募ってくる。  久保が半身を翻して、亜希をきつく抱き締める。 「どうした?」 「……好き。」  今までどうにか保っていた理性が崩れる。
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