4/22
前へ
/22ページ
次へ
 ――もっと呼んで欲しい。  ――もっと求めて欲しい。  欲望を押し付けたいわけじゃない。  本当はもっと優しくしてやりたい。  でも、そんな余裕がどこにも無い。  ――溺れてしまう。  二つの吐息と心音が交錯する。  感情の波に飲み込まれて、欲望の潮に足を取られる。  ――流される。  愛おしくてたまらない。  ひたすらに愛おしいと、こんなにも泣きたくなるのだろうか。 「……亜、希。」  このままずっと一緒に居たい。  いっそ朝なんか、来なければいい。 「亜、希……ッ。」  うねる髪。  少し苦しげな吐息。  汗ばむ体。  そのどれもに「自分のものだ」と刻印を施したい。  自分がこんなに欲深い人間だとは思わなかった。  ――彼女さえいれば良い。  ――他には、何もいらない。  夢現つの中で、理性のたがはとうに外れてしまって、ただ一心不乱に亜希を求める。  丸みを帯びた胸。  柔らかな腕。  愛らしい唇。  何もかもを自分の支配下に置きたい。  どこに隠れていたのか、凶暴な獣が目を覚ます。  一瞬でも気を抜くと、そいつに体を乗っ取られそうだ。 「貴、俊……さ……。」  虫の声で囁く亜希の声に煽られる。  ――もっと鳴いて欲しい。  ――もっと感じて欲しい。  そして、自分が亜希に溺れていくように、亜希も自分に狂えばいい。  朦朧とした意識の中で久保は亜希をきつく抱き締めた。 (……もう、ダメ……。)  甲高い声と唸るような声が入り交じる。  それを自分が発していると気が付くのに、数秒のタイムラグが発生する。  ――変になる。  理性は崩れ去り、夢中で首筋にしがみ付く。  短めに切り揃えられた黒髪。  少し固い筋肉質な腕。  覗き込むように見つめてくる焦げ茶色の瞳。  自分を絡め取ろうとする久保の動きに必死に抵抗をする。  目の前の景色なのに、ところどころコマ落ちした映像のように途切れ途切れで、快楽と理性の狭間で揺れ動く。  ――このヒトが欲しい。  背中に回した指先に、力が必要以上に入る。  爪を立てられて、顔を歪めて呻く。  それでも飢えた心と体は、互いを求める。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加