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「貴俊さ……、頂……戴。」  五体がバラバラになりそうなのに、彼が欲しくてたまらない。  ――私自身は、あげる。  だから、代わりに与えて欲しい。  ――その吐息も。  ――眼差しも。  ひとつ残らず全て。  体中の血液が沸騰するくらいに熱い。  ――魂を求めて乞う。  朦朧とした意識の中で、夢中で久保に抱き付く。  快楽が津波のように繰り返し押し寄せてきて、なすすべなく流される。  ――本当の恋。  苦しげな久保の表情に、愛おしさが募る。  それと同時に頭の中が真っ白になる。  今までの声にならずに積もっていった言葉たちの雪原。  ――好き。  ――気が付かないで。  ――傍にいて。  胃潰瘍で入院した日、久保は亜希を宥めながら、話を続けた。 「……俺が進藤の立場なら、その友達には『本当の恋をしなさい』って言うな。」 「――本当の恋?」 「ああ。」  久保が消えてしまいそうに見えて、亜希は咄嗟に手に力を入れる。  優しい笑みを久保が溢す。 「……恋はな、古くは万葉時代に、時間と空間を隔てても相手を慕い懐かしむ気持ちを『なんとかに恋う』って、不思議に心が吸い寄せられる気持ちを歌ったそうだよ。神様に『乞う』と同根の言葉という説もある。」 「『乞う』と一緒?」 「ああ。恋人の魂を求めて乞うんだ。」  久保は静かに亜希を諭す。 「――何だか、切ないね。」 「ああ、そうだな。一人でいる『弧』が『悲』しいとも書くしな。」  ――どんなに離れても。  ――どんなに時間が経っても。  ――君に恋慕う。  亜希は久保の熱い想いに一瞬触れたような気がして深く呼吸をした。 「……甘えはダメ?」 「たまには良いけどずっとはダメだ。チョコレートと一緒で、少しビターなくらいが上手いしな。」 「……何、その理屈。」  目頭が熱くなる。 (――このまま、時が止まればいい。)  二人きりでいると、その思いが強くなる。 「……理由を考えられるなら、まだ『恋』じゃない。」 「へ?」 「本当に好きになったら、理由なんて考える余地がない。」  久保は亜希の手を握り返す。
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