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 ――近くの窓から、夜景が見える。  ――久保に教えてもらった星はビルの影に紛れて見えない。  亜希はゆっくりとひとつ瞬きをした。  近くの自販機の、鈍いモーター音が聞こえてくる。  ――甘えだけじゃないよ。  最初はそうだったかもしれないけど、今は違う。  ――だって、こんなに会いたい。  亜希は久保が包んでくれた左手に口付ける。  ――だって、こんなに淋しい。  夜は昏々と更けていく。 (……だから、私に教えて。恋に落ちる方法も、キスの仕方も。――そして好きな人を諦める方法を。)  亜希は夜景が涙に滲むのを感じた。 (……私には教えてくれるヒトが必要なんだよ。)  亜希はそのまま暫くぼおっとしていた。  しばらくしてナースステーションに戻ってきた年配の看護師に見つかる。 「あら、進藤さん、こんなところでどうしました?」 「喉が渇いて。あと……眠りたくなかったから。」 「怖い夢でも見たの?」  亜希は曖昧に頷く。  夢の内容は覚えていなかった。 「そう、何か羽織るものを持ってきますね。」 「……ありがとうございます。」  足早に立ち去ると、看護師はカーディガンと膝掛けを持ってきてくれる。 「まだジュースとかはダメだから。」  そう言うと亜希にぬるま湯を渡す。  ――久保と同じようなぬくもり。  亜希は心が解れる感じがした。 「……美味しい。」 「あら、単なるお湯よ?」 「うん……、でも、美味しい。」  そして涙が溢れてくる。 「……私ね、酷いことをしたからバチが当たったんだと思うの。」  亜希は見知らぬ看護師に久保や内田のことをぽつりぽつりと話しだした。 「『甘え』とか『憧れ』だって。……内田言った通り『報われない恋』なら諦めた方がいいのに。」  亜希は途中から嗚咽混じりに話す。 「……そうでも無いんじゃないかしら? 私は立派に恋だと私は思うわよ。」  看護師は優しく亜希を宥めた。
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