16人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「もしかして、声が出ないとか?それとも耳が聞こえない?」
声は出る。耳だって正常だ。
だけど、そう言うのも面倒で口を噤んだまま。
「参ったなぁ…」
青年はガシガシと頭を掻いて、足を崩す。
参ったのはこっちだ。名前も自分の事も何もわからないんだから。
「記憶喪失とか…?」
独り言とも取れる春真の小さな呟きに私は小さく反応した。
そうだ、きっと私は記憶喪失なんだ。
「あれ…正解だった?嘘だろ……ちょっと待ってろ」
春真は部屋を出ると何処かへ走って行った。
よっぽど慌てていたのか、襖は全開。
スズメが二匹、近くに舞い降りた。
チュンチュンと囀るスズメが愛らしい。
顔を綻ばせて眺めていると、また足音が近づいて来る。
春真のものと、あと一人。
スズメが飛び立った時、春真と剃髪の男が部屋にやって来た。
誰……?医者?
記憶喪失ってお医者様に治せるの?
剃髪の男が洗礼された動きで座る。春真もその隣に座った。
「初めまして、私は雨水 成雅。蘭方医をやっているんだ。」
やっぱり医者か。
雨水って事は、二人は親子?【親子】か……私にも居たのかな?
最初のコメントを投稿しよう!