記憶喪失

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「もしかして、声が出ないとか?それとも耳が聞こえない?」 声は出る。耳だって正常だ。 だけど、そう言うのも面倒で口を噤んだまま。 「参ったなぁ…」 青年はガシガシと頭を掻いて、足を崩す。 参ったのはこっちだ。名前も自分の事も何もわからないんだから。 「記憶喪失とか…?」 独り言とも取れる春真の小さな呟きに私は小さく反応した。 そうだ、きっと私は記憶喪失なんだ。 「あれ…正解だった?嘘だろ……ちょっと待ってろ」 春真は部屋を出ると何処かへ走って行った。 よっぽど慌てていたのか、襖は全開。 スズメが二匹、近くに舞い降りた。 チュンチュンと囀るスズメが愛らしい。 顔を綻ばせて眺めていると、また足音が近づいて来る。 春真のものと、あと一人。 スズメが飛び立った時、春真と剃髪の男が部屋にやって来た。 誰……?医者? 記憶喪失ってお医者様に治せるの? 剃髪の男が洗礼された動きで座る。春真もその隣に座った。 「初めまして、私は雨水 成雅。蘭方医をやっているんだ。」 やっぱり医者か。 雨水って事は、二人は親子?【親子】か……私にも居たのかな?
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