記憶喪失

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「君の名前は…?」 成雅さんに優しく瞳を向けられ、私は眼を逸らしながら首を振った。 何なんだろう、この人…。人ってこんな暖かい眼をするの? 「生まれは…?家族はいるの…?」 重ねて問われる。 私はまた、首を振った。 「分からないのかい…?」 そう分からない。分からないんだ、何もかも。 私は、小さく頷いた。 「父上…。如何なさいますか…」 如何なるんだろう。当ても無い、お金も無い、如何やって生きて行くのかも分からない。 此所を追い出されれば、きっと私は其処らで野垂れ死ぬだろう。 ……それも悪くはないか…。 どうせ、いつ死ぬか分からない身だ。今死んだって哀しむ人はいないだろう。 「如何するか…簡単です。うちの子になれば良いんだよ」 「え…っ……」 顔を上げると、あの優しい眼と眼が合った。 「おや…声が出ましたね。喉に異常はないみたいで、安心したよ」 「…………」 そう言ってフワリと微笑む成雅さんが眩しく思えて、私は両手を握り締めた。 「それで、如何です?うちの子になってくれるかい?」 「………」 断る理由も、拒む理由もない。 私は黙って頷いた。
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