記憶喪失

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「そうか…それは良かった」 心底安心したように、成雅さんが息を吐いた。 穏やかな笑みを口元に浮かべたまま、隣に顔を向ける。 「春真も良いかい?…まぁ…この子を連れて来たのは他でもないお前だから、反対なんてしないだろうが…」 肩をビクッと揺らし、春真が小さく飛び上る。 その頬は、薄く染まっているように見えた。 「言わないで下さいよ……父上」 恥ずかしそうに春真は頬を掻く。 それが照れ隠しだと分かり、つい笑みが零れた。 「やっと笑ったね…。子供はそうでいなくては…」 大きな手が私の頭を優しく撫でた。 それが心地よくて、暖かくて…。 何故だか分からないけど、胸がジンっと熱くなり、私は一粒の涙を零した。 「……有り難うございます…。」 また零れた落ちそうになる涙を拭うと、満面の笑みで二人を見据えた。 泣き笑いだろうけど、今出来る精一杯の笑顔。 二人は顔を見合わせると、笑い返した。 「これからよろしく頼むよ…」 「言っとくけど、俺が兄貴だからな。わかったか、妹っ!」 【はい。兄上さま…】 答える代わりに、私は小さく微笑んだ。
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