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「私は別に、バレーが好きで入ったわけじゃないし、それに中学校の時は女の子特有の変な上下関係とかがあって、正直あまり良い思い出はないんだよね。高校って部活多いし、バレーじゃない何か自分の興味あるものも見つかると思うし」
「……そっか、そうだよね」
その言葉に、琴はどこか安心したように小さく息を吐いた。
演劇、吹奏楽、卓球、バドミントン、バレー、テニス、陸上、なこが指を折りながら呟く。第三校舎に向かう渡り廊下の途中にある体育館前の自動販売機を見ていた琴は、なこに喉は乾いてないかと問いかけた。質問の意図をすぐに理解したなこは、大丈夫と少し焦りながら、数え途中だった両手の指を開いて大きく横に振った。
「ごめん、数えてたのに話しかけちゃった」
「ううん。気にしないで」
「それで、何がいい?」
「……ミルクティーがいいな、なーんて」
少しだけ頬を赤く染めたなこは、斜め上に目線を泳がせながらそう言った。その可愛らしい仕草に、少しだけ口角を緩める。スクールバッグから財布を取り出してミルクティーを二本購入すると、一本をなこに手渡した。
「ありがとう。今度何かあげるね」
「良いよ。私が奢りたかっただけだから」
プルタブを開けて缶に口をつける二人に、沈黙が訪れる。渡り廊下から見えるグランドは夕焼けでオレンジに染まっていた。校舎と校舎の間から見えるグランドで勢い良く走るサッカー部や陸上部を眺めていると、ほんの一年前まで同じように部活をしていたことが遠い昔の出来事のように感じた。制服・校舎・先生・クラスメイト全てが変わったはずなのに、あっという間に過ぎる一日や、どこか混沌とした自分に呆けていたせいか、高校生になったというはっきりとした自覚が出来ていなかったように思う。第三校舎から響く楽器の音、グランドから響く掛け声が鼓膜を震わせ、琴を一気に目覚めさせた。
「(三年か……)」
始まれば長く、終われば短い。それを良いものに出来るかどうかは自分次第で、その為には治したいところも、克服したいことも、頑張りたいことも沢山ある。がんばれるだろうか、自分に問いかけても即答できないのは、弱い自分を知っているからだ。琴のミルクティーの缶を握る手に少しだけ力が加わった。
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