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「そうだよ。私の席水沢さんと間逆だから話しかけるタイミング逃しちゃって。ほら、最初の席は五十音順でしょ?阿久津だから一番端の先頭なんだ」
教室前方の角、担任の机が置いてある目の前の席を指差す。琴の席がある廊下側から二列目の最後尾とはほぼ対角の位置だ。どうやら自分がなこのことを忘れていた訳ではないらしい。そのことが確認できた琴は心の中でため息をついた。
「それで部活のことなんだけど、もし水沢さんが良かったらこれから一緒に回らない?」
「え、いいの?」
「私から誘ったんだから良いに決まってるよー。琴ちゃんって面白いね。あ、琴ちゃんって呼んでも良いかな?」
「も、勿論! 私もなこちゃんって呼ぶね!」
なこに自然に握られた両手に生ぬるさを感じながら、琴は思う。上下関係をあまり意識させられない小学生とは違い、中学・高校と、学校と言う社会を学ぶうちに、友達作りというものはかなり奥の深いものに感じる。勿論、単純に友達をつくろうという人もいるのだろうが、琴にとっては違う。それは今までの人生で得た教訓の一つかも知れない。小学生の時は純粋だった。クラスのリーダー的な女の子にパシリにされていることに気付かずにいたのも、中学校の時に、小学校の二の舞には絶対ならないようにしていたら、逆に目をつけられたことも、苦い思い出なのだ。何かとグループや仲間を作りたがるのは女子の悪い点だ。そう言った点琴は男子になりたいと本気で思ったことがある。しかし琴は男子が全般的に苦手だったので、結局現状をどう切り抜けるかを考えることしか出来なかったのである。
友達づくりをやたら深刻な話にしてしまったが、友達という友達がまだ出来ていない琴にとって、なこからの誘いはこれ以上なく嬉しいものだった。行こうか、最初に話しかけられたときの女の子らしい柔らかな微笑みに、思わず琴も笑みを溢した。二人は肩を並べて、教室を後にした。
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